芭蕉七部集-3
歌仙「むめがゝに」の巻 芭蕉・野坡 両吟 『炭俵』所収
初表
むめがゝにのつと日の出る山路かな 芭蕉
處々に雉子の啼たつ 野坡
家(や)普請を春のてすきにとり付(つい)て 〃
上(かみ)のたよりにあがる米の直(ね) 蕉
宵の内ばらばらとせし月の雲 〃
藪(やぶ)越(ごし)はなすあきのさびしき 坡
初裏
御(お)頭(かしら)へ菊もらはるゝめいわくさ 坡
娘(むすめ)を堅(かた)う人にあはせぬ 蕉
奈良がよひおなじつらなる細(ほそ)基(もと)手 坡
ことしは雨のふらぬ六(ろく)月(ぐわつ) 蕉
預(あづ)けたるみそとりにやる向(むかふ)河岸 坡
ひたといひ出すお袋の事 蕉
終宵(よもすがら)尼の持(ぢ)病(びやう)を押へける 坡
こんにやくばかりのこる名月 蕉
はつ雁に乘懸(のりかけ)下地敷(しい)て見る 坡
露を相手に居合ひとぬき 蕉
町衆(しゆう)のつらりと酔て花の陰 坡
門(もん)で押るゝ壬生(みぶ)の念佛 蕉
二表
東風(こち)々(かぜ)に糞(コヘ)のいきれを吹まはし
たヾ居(ゐ)るまゝに肱(かひな)わづらふ
江戸の左(さ)右(う)むかひの亭主登られて
こちにもいれどから臼(うす)をかす
方々(はうばう)に十夜(じふや)の内のかねの音
桐(きり)の木高く月さゆる也(なり)
門(もん)しめてだまってねたる面白さ
ひらふた金(かね)で表がへする
はつ午(うま)に女房のおやこ振(ふる)舞(まひ)て
又このはるも済ぬ牢(らう)人(にん)
法(ほふ)印(いん)の湯(たう)治(ぢ)を送る花ざかり
なは手を下(ヲ)りて靑麥(あをむぎ)の出來
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