さあ海原へ
十日夜行き先捜す救急車 一航 田から山へ神様がお帰りになる日、十日夜(とお かんや・陰暦10月10日)。頼にもよってそんな日に、行き先がまだ決まらない救急車。
渓流の音に木々の葉染まりゆく かすみ 紅や黄に渓谷を彩る様々な木々。清らかな流れのその響きが相俟って、得も言われぬ彩りを染めてゆく。
古池や満月見あぐ鮒なまづ 陽陽空 寂びの象徴古池と花鳥風月の月に対して「鮒(ふな)なまづ」 と付けたところが俳諧。読者は、古池や蛙…の先行句を下重ね に、鮒となまづの月夜の静寂を思い描くことだろう。
杉玉の緑馨し今年酒 登 「芳しい」はしばしば目にするが…。馨(かぐわ)しの読みが、杉玉の緑をより新鮮に感じさせる。
様々なもみぢの集ふ吹きだまり 千都子 もみぢと言っても楓・櫨・蔦・銀杏・柿……と。さらに大小様々、綺麗な葉から枯葉まで。それらが集っていると捉えたところに独自の視線が感じられる。
鵯鳴くや百歳体操いちにっさん 佳子 一二三、の掛け声と鵯(ヒヨ)の相乗効果。 鵯は人家近くに来て何でも食べ、ピーヨ・ピーヨと元気よく鳴く。
七竈口うるさきは母似かな 嘉子 兄弟姉妹のことかあるいは夫のことか。いやいや 自分自身を見詰めていると読むのが穏当。七竈(ナナカマド)は楓もみぢと違い勢いのよい赤。往年の母子の様子がほのぼのと。
駄菓子屋に人群れ稲は豊かなる みい子 下町風景の駄菓子屋と豊かに実る田園。収穫の時期ならではの人と自然の充足感が伝わってくる。
切干や踵おとしを五十回 美鈴 爪先立って踵をストンと落とす健康体操。骨が強 くなるとか…。干されて引き締まる切干し大根、 季語によって句も引き締まった。
以上 2020/11/19・23名(69句) 赤磐市立中央公民館
――白帆の十句選
令和2年11月 ■ 天毬句会
寄鍋やぱかっと開く貝の口 淳子 煮立ったことがこれくらいはっきりした句も ない。新鮮な貝が目から耳から――。
重機二基出でて令和の池普請 薫風 水涸れの冬期に、ゴミを取り除き堤防の補修をする。嘗ては村人総出の作業だったが、今では重機二基とオペレーター二名。隔世の感しきり。
落日を燃え上らせる大枯野 恭衣 今にも火がつきそうな枯野…、いや既に燃え上がっているのである。だから入日に火がついた。
千把こき一家総出でありし頃 華紅
昭和の中頃には人力の千把扱き、見かけましたね。両親に兄弟姉妹みんな 一緒に暮らしていました。
何処からかショパンに釣られ小鳥来る てるひ
ショパンの曲が流れてきた。その家、窓と見上げていたら小鳥たちが飛来してきた。小鳥もこの曲を聞きつけたのか――。
一つづつ映える赤色唐辛子 力 一つづつという措辞で唐辛子の一つ一つが際立っ て見えてくる。わざわざ赤色と言ったことで、同じ 赤でもそれぞれ主張しているように感じられる。
暮早し灯ともし頃の坂の街 豊健
冬の夕暮れは日一日と早くなる。迫る日暮れの足取りのように、家々の灯りが広がってゆく坂の街。
閉じ籠もりがちな日々の絶好の紅葉狩り。お気に入りのマス クは、コロナ対策というよりファッショナブル・アイテム。 晴々は作者の心そのもの。
風になほ無口貫く破芭蕉 邦慧
この句のテーマは破芭蕉の強固な意志か。いやここまで来ると、逆に身を委ねきった自然体と言うべきか。黙し て語らぬ破芭蕉。
錆鮎の背鰭の弾く夕日影 かおり
産卵後の雌(メス)はその色合いから錆鮎と呼ばれる。最も錆びた背鰭を輝かせながら下流に流れて生を終え る。フィナーレを飾る感動的な輝きである。
以上 2020/11/20 投句24名(120句) きらめきプラザ(岡山市南方)
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